母は、父が私たちに押し付ける教育を止めなかったけれど
その厳しさに負けそうになったとき黙って不満を聞いてくた
そして聞き終えると必ずこう返してきた
「そうね、それで椿はそれで良いの?」
小さい頃から、退魔の仕事を行う桐崎の当主としての父を見てきた
そして、まわりの人達がそんな父を支え、信頼しているのも見てきた
だからこそ、そんな父の背中を憧れと畏怖の気持ちて見てきた
だからこそ私は、その母の問いでいつもはっとさせられた
『負けたくない』
何に、というのはわからない
だから考えた
考えて、まわりの大人にたくさん聞いて、考えた
今思うと、子供のささいな質問に根気強く付き合ってくれた
お手伝いさんのミチルさんにも感謝しなくてはならない
なんだかんだで、私はまわりの大人に恵まれていたのだと思う
そんな中で自分のすることの意味を考えてきた
私らしい生き方
それはまだピンとこないけど、少なくとも後悔だけはしたくない
だからそのために毎日を過ごしてきたし、これからもそうしたいと思う
気になる金髪の双子
同じ『桐崎』の家の家族なのに、まわりの『桐崎』の家から腫れ物のように扱われ
時に不吉な存在と扱われる双子
そんな二人の扱われ方がどうしても納得できなかった
だから二人を少しでも助けたいと行動してその度に父に叱られたことも沢山あった
そんな私の行動について母は注意こそするものの強く言わなかった
しかし、その双子が片方を失ったと聞き放っておけなくて
彼女を追って銀誓館学園へ入学することを相談したときに、笑いながらこんなことを言ったのを覚えている
「あなたはそれが良いと思ったのね
人が社会で生きるには見栄も必要、でも…それは自分自身を縛ってしまうこともあるの」
そう言いながら、父からもらったものだという櫛を撫でた母
母はたまに意図がわからないことを言う
今回も意味を図りかねているとこんな言葉が続いた
「きっと父さんも内心は許してくれる筈よ
あの人は、この『桐崎』の家の幸せをいつも願っているのだから」
本家から弾かれたあの双子の家を再び迎え入れることを、父が望んでいる
そう、遠回しに言っている気がした
伝統を重んじる父
そんな父はあの双子の家を良く思ってないのだと感じていたので
その時はまさか、とその考えを振りほどいた
今も父の本心はわからない
ただわかることは、私は父の七光りのお陰で家の中でそれなりの権限があり
父の後継ぎの兄も私の味方で
残りは本家や分家の頑固なジジババを納得させる方法だけだということ
そのためには私はもうちょい人生経験を詰んで七光りを抜けなきゃいけないこと
そして私が気にしている双子の片割れ、早苗はもっと『桐崎』の家から信頼を得ないといけないということ
早苗はとても自分に鈍い子で、誰かが引っ張らないと自分を出せない子だ
となると私が一肌脱がなきゃいけないよね
と、思うのだ
母が私に何を望んでいるのかはまだわからない
でも、母はかつてこんなことを言ったことがある
「椿という花の花言葉を知っていますか?」
あの時も意図がわからず戸惑ったけれど
たぶん、「今の私」が「私らしく」生きること
それがちょうど母が自分の子に望む姿なんじゃないかな、と、たまに思う
なんだか、そうなるように育てられた気もするけれど
これからを後悔しないために私らしくありたいなと
そう私は思う
その上で友達や家族が笑顔でいられたら、それはとても素敵なことなんじゃないかな
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