抗体ゴーストの軍勢との戦い
カタストロフのときとは比べ物にならない強者がひしめき合う場所だった
拳を硬く握り、そして開く
痛みから満足に力が入らず指先が震えている
生命賛歌の効果があるとはいえ身体の痛みは誤魔化せず
それは死へ片足を入れていることを告げていた
「まあ…こういうときは健康な方にがんばってもらうのがセオリーですね」
小さく息を吐き、威勢良く戦場へ出て行った相方を想う
彼女はあの軍勢が怖くないのか
そして私も、怖くないのだろうか
背負うものもあるのでここで尽きるつもりはない
しかし同時に、自分の事がよくわからない時がある
思えば私は、ただ「こうあろう」という描いたレールをなぞってきた
家業を継ぐため
そして技を継ぐため
目立たず、長くひっそりと
大衆に埋もれることで古の武術を守ってきた我が家
いつ、なぜ、だれから継がれてきたのか特に記録に残っておらず
ただ伝えられるのは、先祖が一生の恩を受けた方の願いにより
この技だけは途絶えさせぬようにと
ただ強くありたい
勝負に身を投じる楽しさは本心だと思う
しかし時おり不安以上の感情を感じない自分に疑問を持つことがある
恐怖というものは誰もが持つはずなのだ
命を賭ける場面で私が感じるものは
もしここで命を落としたら背負っているものを投げ出す形になる、という悔しさと
適任者への引継ぎのこと
ただそれだけだ
自分が消えてしまうことそのものに関しては何も感じていない
これは正しいことなのだろうか
疑問を思いながらも、その時々で「するべきこと」を淡々と考える
ただ言えることは
勝負に身を置いている瞬間こそ自分を強く感じられること
そして戦場に出られない今の状態から、戦える者がとても羨ましいということ
この怪我も半日で癒えることだろう
戦いが終わると再び日常が戻り
私はまたするべきことを行っていく日々に戻っていく
不満はない
でも、疑問を感じることはある
私はどうしたいのだろう
拳を再び握り締め、そしてまた開いた
相変わらず指先が震えている
力が入らない
―やはり、満足に戦うのは厳しそうですね
そんなことを考えている自分に気付き
小さなため息と共に苦笑した
明日は晴れるのでしょうか
曇天を見上げてそんなことをぼんやり考えた
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