彩香の涙を始めて見たかもしれない
表情は相変わらず、淡々としていて
それでも、確かに流れるのを見た
その直後に走り出したのを空と二人で追い掛けている
理由は気になる依頼に出た人たちが帰ってきて、その報告が貼り出されたから
ナイトメアビーストの二人を追撃するもの
そして、連れ帰るチャンスでもあった
あの二人は空と彩香に少ししている、とアルフレッドは感じていた
彩香もそう感じていた様で、二人を説得すると息込んでいたけど
どうやらメンバーには選ばれなかった様だ
最初こそ理不尽そうに拗ねていたけど
直ぐに気持ちを切り替えて
報告を今か今かと待っていた
その様は傍から見ていて良く分かるくらいだった
僕もその二人の特徴を聞きながら身近に感じていたから
この結果は悲しい
空はぐんぐん加速し、あっという間に僕を引き離し彩香を追いかけていった
この調子なら彩香のほうはすぐ捕まるかもしれない
それでも、僕も追いかけなきゃ
―――
「―彩ちゃん!」
空は学校の裏の林になっている場所で彩香に追い付いた
彩香の腕を掴んで引き止める
「―!」
彩香は腕を掴んだ相手を睨み一瞬抵抗するが
相手が空だとわかると抵抗を止めその場に崩れ込む
「…彩ちゃん…」
彩香は声を押し殺して泣いていた
空もこんな彩香は初めて見た
静かな夕暮れの木々の空間に嗚咽が響く
空は彩香の隣に座り、何も言わずに抱き寄せた
彩香は空の胸に顔を埋め、悲しみの声を上げた
…どのくらいこうしていただろうか
1時間以上かもしれないし、たった10分かもしれない
あたりはすっかり薄暗くなり始めていた
ニャー…
白銀の毛皮の猫が寄って来た
野良だろうか
人に慣れているのか撫でても逃げる様子が無い
「…餌は無いわよ」
猫を撫でながら彩香は赤く腫れた目でそう呟いた
「…野良かな?」
疑問を口にしながら、空も猫の喉を擽る
「飼い猫かも、毛が綺麗だし」
彩香がそう答えた時、
猫は何かを追い掛けるように草陰へ走り去ってしまった
「落ち着いた?」
「…うん」
「そっか、良かった」
空は彩香の様子を確認して微笑えみ、立ち上がった
「よし、じゃあ次はアルを探さなきゃね
置いて来ちゃったからまだ私たちを探してるかも」
えへへ、と照れながら言う
彩香も顔を拭って立ち上がった
すると調度アルが息を切らせてヨタヨタと歩いてくるのが見えた
「ゼェ…ゼェ…二人とも…ここに…いたんだ…」
どのくらい走ったのだろう
今にも倒れそうな顔をしている
アルは立ち止まって呼吸を整えた後に彩香の様子を改めて見て安堵する
「大丈夫そうだね、良かった…」
「…アルの方が大丈夫じゃなさそう…」
すかさず彩香が突っ込んだ
「…本当にモヤシね…」
飽きれ顔で言う彩香にアルは不満の顔を向け
「…なんだよ、心配して損した」
と愚痴を漏らす
「…ああ、そうだ」
ふと、アルが思い出したように付け加えた
「友達が探してたよ、ええと…誰だったかな…」
「…誰?」
「こっちも走って必死だったから覚えてな…痛っ」
アルの額に彩香のチョップが入った
額をさすり抗議したそうなアルを無視し
「探してみる」
そう言い、彩香は再び走り去っていった
「彩ちゃんお友達に会えるかな?」
そうつぶやく空の隣にアルフレッドは腰を下ろしてこう言った
「空、頑張ったね」
空は幼なじみの急な一言に驚いた
アルはさらに言葉を続ける
「ちゃんと彩香のお姉さんだったよ」
アルは心配の混ざった微笑み向けていた
「…あれ…変だな、…大丈夫だったのに…涙が…」
空の頬にも涙が流れた
「あまり無理しちゃだめだよ、空も彩香と同じくらい辛い筈じゃないか」
この幼なじみの言葉で押し殺していたものが溢れ出した
(彩香も空も、行けなくて良かったのかもしれない)
しがみつき泣きじゃくる空の体温に緊張しながら、アルはそう感じた
教室で聞きかじった範囲だが、説得はかなり難しかった様だ
(本人達を前にして失敗するよりは、少しかやの外の方がショックは少ないのかも…)
―まだ会ったことが無いからこそ
「…ほら、そろそろ彩香が戻るかもしれないよ」
「…うん…」
「空はお姉さんだもんね」
「…うん…」
「いつも頑張ってるの知ってるよ」
「…うん…ありがと、アル」
涙を拭いながら立ち上がった空は再びいつもの調子に戻っていた
「私が頑張らないとね!おっし、気分転換にゴーストタウン行こう!」
「夕飯に間に合うように帰らなきゃね」
「もちろん!」
彼女の笑顔を見ていると自分まで元気になってくる
みんな、戦うときは何かを守るためなんだと思う
それは、住処だったり、プライドだったり、財産だったり、快楽だったり、…大事にしたい相手だったり
利害が食い違ったら、食い違った相手を倒さないといけない時もあると思う
僕が守りたいものは…
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