早朝
人もまばらなグラウンドでビニールシートがそこかしこで広げられている
組ごとの待機スペースもあると思うのだけど、知り合い同士で交流を深めるためには独自に場所取りをする方が良いらしい
そう聞いていた早苗は、校庭の木の下へと来ていた
「…このあたりでしょうか」
木を見上げ、地面に目を移す
しかしそこには先客がいた
「…あ、アルフレッドさん」
木にもたれかかって居眠りしている銀髪の少年は、良く知っている
この学園に来て最初に知り合った三人の年下の友人の一人だった
(彼らもお誘いするつもりでしたので…同じ場所を利用できれば良いのですが…)
本人が寝てしまっていては聞くことも出来ない
他の場所の候補を探したほうが良いだろうかと思案していると、もう一人見知った顔が現れた
蒼い瞳の少女が、その目をこちらに向けている
「おはよー…ございます」
目が合うと艶のある灰色の髪をなびかせてお辞儀をする
「お早う御座います、彩香さん」
挨拶を終えると彩香はそのまま、アルが居眠りしているブルーシートのスペースに上がりこみ手にした脚立を設置し始めた
なんとなくその様子を眺めているとその蒼い瞳が振り返り、再びこちらをジッと見つめてきた
「ここ、使って」
その意味を解釈するのに少し時間がかかってしまった
つまりは、この場所にお邪魔しても良いということなのだろうか
「私の友人たちもお呼びするかもしれないですが、それでも良いでしょうか?」
「ん…そのシートを足せば広さは平気」
と、私が抱えているシートを視線で示して付け加えてくる
「それでは、お邪魔させていただきますね」
私が持参したシートを加え、この木の下に急造された休憩スペースは十分に広いものとなった
木の周囲には他の人が確保したスペースもあったものの、なんとか確保できていた
早めに来たのが良かったのかもしれない
「彩香さんたちも運動会に参加されるのですか?」
特に話題もなくなんとなく聞いてみる
「参加は、ソラだけ」
という簡素な返事だけが返ってきた
その間も、熱心にビデオカメラの設定をしているようだった
大事な友人の活躍を映像として収めるつもりなのだろう
クールなように見えて意外と熱い心を持つ子だというのが、早苗の中での彩香の評価だったので
この行動はとても彼女らしいと思った
もう少ししたらさらに人が増え、椿も来ることだろう
今日は賑やかになりそうだ…と思った
眠ているアルの隣に座り、お守り代わりに持ち歩いている刺繍の人形を手にとって見つめる
思えば、姉もこのような催しが好きな人だった
嫌がる私を半ば無理やり外に引っ張り出しては、さまざまな経験に誘ってきた
引っ張り出すだけではなくその後のフォローもしてくれていたのを思い出す
…だからこそ、その行動力と気配りに憧れると同時に依存していたのかもしれない
昔の何も出来なかった自分から、少しでも前に進めているのだろうかと、ふと思った
溜めた息を吐き、木の葉の向こうに広がる青く広い空を見上げる
(…私も、もっと色々と楽しまなければなりませんね)
思わず苦笑が漏れた
今日は頑張ろう、私なりに精一杯
校庭に視線を移すと見知った顔が視界に入った
(あら…?)
当日は参加しないと言っていた気がする加奈枝さんが体操着で校庭に居る気がする…
あの人も計画的なようでいて気分屋なところがあるため、気が変わって参加することにしたのだろう
もう一度、空を見上げた
先ほどは頑張ろうと思ったけれど、もっと曖昧でも良いのではないだろかと思い直す
今日は楽しもう…私なりに、精一杯
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