日も沈みはじめて校庭で大きな薪がやぐら組みされていく
これからキャンプファイヤーが始まるのだろう
彩香を保健室に連れて行ったソラがやぐらを見ながらこちらへ歩いてくるのが見える
何故保健室なのかというと
棒倒しが終わって喉が渇いたソラが「水貰うねー」と彩香の水筒からお茶を飲んだとき
彩香が鼻血を出してふら付いたのだ
あれはたぶん日射病とか貧血とかそういうものではないと思う
彩香はどうもソラに対して特別な感情を持っているのではないかという気がしてならない
それはそうと…
(…今年こそは…)
今年の運動会に対して、僕にはある決意があった
「ソラ、ちょっと校舎の裏までいいかな」
「うん、どうして?いいよ?」
そう返事をする瞳はとても澄んでいて
疑うことを知らないかのようだった
…ダメだ、この目を見ていると決心が揺らいでしまう
無言でそのまま校舎裏へ移動する
ソラもてくてくとついてくる
校舎裏は薄暗く、そして人通りも少なくて静かだった
暫く歩いて人気が完全に無い場所まで移動した
『フォークダンス』
これが今年の僕の目標だった
一緒に踊った人と結ばれるという噂 ―― あくまで噂だと思うけれど ―― それを
試してみよう、と去年にその噂を聞いた時に思ったのだ
残念ながら去年は意識しすぎて声をかけることも出来なかった
この幼馴染に対して、負けたくないという気持ちと同時に
特別な好意を持っているのは確かだと思う
それがいわゆる『好き』という気持ちなのかはわからない
もかしたら、これから他の人をもっと好きになるかもしれない
でも…このままでいるのも嫌だから…
…確かめるための一歩が欲しい
それが、僕の今の結論だった
歩みを止めて振り返る
目の前には幼馴染の女の子がいる
お節介でいつも頼んでもいないことを勝手にやろうとする
頼んでもないのに僕のやることに首を出して
頼んでもないのに面白い場所に連れ出そうとして
そのくせ、運動が苦手な僕にあてつけるようにスポーツ万能で
そんなナマイキな相手だ
その上、知らない人の言うことをすぐ信じてついていこうとするし
騙されてお小遣いをとられても気付かない
一人にするととても心配で見ちゃいられない
そんな存在
きっとあまりにソラが馴れ馴れしいから、勘違いしているだけなんだ
こうやって少しずつ確かめていけば、勘違いだって気付けるかもしれない
それだけ
それだけなんだ
そう、自分に言い聞かせる
なのに
「どうしたの?」
と、きょとんと首をかしげる
きっと何を頼んでも、よっぽどなことじゃなければ何でもOKしてくれるのだろう
フォークダンスを一緒に踊るなんて、これっぽっちも意味を考えずにOKしてくれる
富士野・空はそういう人だ
胸が苦しくなってきた
「…?」
不思議そうな顔をしながらも、ソラはこちらが何かを言うのをじっと待っている
僕の方はというと、頭の中が真っ白になり始めていた
この場から逃げ出してしまいたい
そんな衝動が首をもたげてくる
「…あっ」
そんな時、ソラが声をあげた
「…綺麗な星」
吊られて空を見上げると、夕闇に浮かぶ星がくっきりと見えた
まだ完全に日が沈んでいないため
薄紫のほんのり明るい空で小さな明かりが瞬いている
「そっか、暗いここなら良く見えるもんね」
そういいながら無邪気な笑顔をこちらに向け、そして再び上空を見上げた
僕はというと、そんな彼女の横顔を見つめることしか出来なかった
(どうして君は、こうなんだ)
でもだからこそなんだよな…と、自分でも良く分からない納得をしてしまった
力が抜け、近くの段差に座り込む
するとソラも隣に座ってきた
「立ってると疲れちゃうもんね」
ソラが座ったまま上を見上げようとして、体を支えるために背後に手を置くと
座り込んだときに似た姿勢で先に置いていた僕の手に触れた
ソラはそんなことにも気付いていないようで空を見上げながらこう呟いた
「彩ちゃんとも一緒に見たかったなー」
その呟きに諦めに近いため息もらしながら
「…また、今度だね」
と答えた
その後は、そのまま2人で暗くなっていくグラデーションの空を眺めていた
最も、フォークダンスの音楽が鳴るとそちらに興味を移したのか
「あ、焚き火見てくるね」とどこかへ行ってしまったのだけども
その後、30分ほどで「帰るよー?」とソラと彩香が迎えにくるまでの間
妙に疲れを感じた僕は、ただぼんやりと星を眺めていた
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