「おい、どうした?いつもよりしゃべらないじゃないか」
夢の中でお調子ものの馬が話しかけてくる
「うるさい」
そう言い放つと、捕らわれのナイトメアは一瞬ビクッとその身を小さくさせた
これは私の夢の中
『自らの夢の中に来訪者「ナイトメア」を捕獲し、支配した存在』
それがナイトメア適合者
そしてこのナイトメアは私の夢の中に捕獲したナイトメアだ
「お前なぁ、八つ当たりはよく無いぞ?そろそろ俺を解放してくれないか、新しい力を試すのも良いと思うんだ、うん」
「うるさい」
白い馬は再びその身を縮こませる
果たしてジョブチェンジをすることで捕らわれているナイトメアは開放されるのだろうかという疑問はあるものの
今の彩香には特に気にすることではなかった
「あーあ…こいつの夢に来るんじゃなかったよ…」
彩香の夢のナイトメアはそう独りで嘆き、その場に座り込んだ
しかし、沈黙に耐え切れず再び声をかける
「なあ…なんか喋ってくれよ」
「うるさい」
さすがに三度目ともなると向こうも慣れてきたのか少し態度を大きくしてきた
「…それしか言わないのな、なんだ、つまりイラついてるんじゃなくて別の理由か」
「………」
「あれか、俺が来る前のことか、お前が封印の眠りから冷める前の…」
「…うるさい」
「あんた結構分かりやすいな、まあ、それなら俺は独りで遊んでくるわ」
そう言い、ナイトメアは立ち上がった
「今度またでかい戦いがあるんだってな?あんま自棄になって無理すんなよ」
「…うるさい…」
ナイトメアが気を利かせて姿を隠したため一人になった
一人でいると不安が少しだけ和らいだような気がする
昔のことを思い出していた
無理やり封印される前のこと
各地を渡り歩いてものを売る生業の人間に拾い育てられ
共に各地を巡り歩いていた
ある村に立ち寄った時、そこが雪女を敵視している人たちが住む場所だったために
私と一緒にやってきたという理由から私の大事な人は殺され、私は人間が嫌いになった
そして私はその土地の住人に復讐し、力でねじ伏せた
その支配も長くは続かず、結果としては後にこの土地を訪れた妖狐たちによって封印されてしまった
…実際にはもう何百年も昔のことなのだけども
自覚している時間の流れではほんの数年前のことだ
そのことも、つい最近までは忘れていた
といってもすべてを思い出したわけでもない
記憶は霞がかかったようにおぼろげで、ところどころが頻繁に欠けている
しかし、このことは忘れていてよかったのだと思う
きっと忘れていなかったら目覚めと同時にそのまま復讐のために人々を襲っていただろうから
そういう昔のことを思い出したことで気持ちが沈んでいることもあるが
他にもっと気になることもあった
確か私を封じた本人は日本妖狐だと名乗った
しかし彼と共にいた別の妖狐が口にした単語…神将
教室でこの単語を聞いた時にこのことを思い出した
深く関わってはいけない気がした
でも同時に、他人事でも無い気もしている
そして理屈とは違う直感の部分で大陸妖狐に嫌な感情がある
とにかく、このよく分からないもやもやした気持ちがどうにも落ち着かずイライラする
あの時の妖狐たちが何の目的であの村に来たのかは分からない
結果として私は封印の眠りにつかされ
世界結界が弱まったことで封印が弱くなり
ナイトメアが眠りの中にやってきて
力と記憶を失う形で不完全な目覚めを迎えた
そして今は、この今を守りたいと思う
「…負けたくない」
いまだに霞がかかりはっきりしない記憶
その向こうを覗きたいと思うと同時に、より深く知るのが怖い
「あー、しかし飽きたわ、遊園地の一つでも作ってくれないかな、あんたの夢だろこれ」
突然軽い口調が横から沸いてきた
姿を隠したナイトメアがまた姿を現していた
「…うるさい」
一人にしてくれと目でにらむ
「いや、なんかどんどん思いつめた顔になってくから一人にするの不味いかなーと」
白い馬は後ずさりしながら、こう答えた
「…うるさい…」
何も見たくなくて顔を伏せた
「あんた素直じゃないな…不安ならそう言えばいいじゃないか」
そう言うと、捕らわれのナイトメアは主の傍に座り込んだ
そして一人と一匹は夢の中の雪山でただ座り込んで朝まで過ごした
雪が積もる山中の広場、廃墟が並ぶ空き地の真ん中
朝日が昇り再びその雪を溶かすまで
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神将ってのが出てきたとき美味しい設定だなぁと思うと同時に
なんか彩香が関わってもキャラの性格的に厳しいよなぁとかいろいろ思いました
あくまでこれはアンオフィシャルであって、背後の妄想なので
オフィシャルな場所には出さない前提で結構好き勝手に書いてみたり
でもこのナイトメアのボイルさんは機会があったら結社シナリオの夢の世界~あたりで出してみたい
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